その物語のタイトルはいま君の掌の中に

二人で拙い音を空と海に向けて響かせながら笑い合っているうちに、今日も夕陽がゆっくり傾いていく。

「今日は波が穏やかだな、夕陽に照らされて水平線がくっきり見える」

蒼が片手で日陰を作りながら切長の瞳を細めた。

「うん。ねぇ、蒼……水平線の向こう側ってどうなってるんだろうね」

私は両手で日陰を作りながら蒼を見上げた。

「……未来」

「え?」

「俺たちにとって納得できる未来が待ってるといいよな」

蒼が砂浜に向かって歩いていくと、落ちていた楕円型の石を海面に平行に投げた。

パシャ、パシャ、ポトンッと音がして、蒼がケラケラ笑った。蒼の投げた小石が海面を弾けていく様が私には未来への希望の足跡に見えた。

「3歩か、水平線の向こう側までまだまだかかるな」

私は蒼の隣に並んだ。 

「蒼の夢……も私の夢も何万歩か何億万歩かわかんないけど……いつか水平線の向こう側までいけるといいね」

「そだな……って俺まだ月瀬の夢預かったままだけどな。あと3日後に……持ってくるから」

あと3日。

蒼との日々は毎日が新しいことの連続で毎日知らなかった自分を知っていることに気づく。蒼のあと3日の言葉に胸の奥底が膿んだようにズキンと痛んだ。