その物語のタイトルはいま君の掌の中に


「うーん、こう?」

海辺に着くと二人で前後になって砂浜に座る。慣れない手つきで辿々しく弦を弾けばポロンと間抜けな音が鳴った。

「月瀬、もうちょい強めかな、あと左手しっかりEmコード押さえて」

「手攣りそう……えと、こう?」

「ぷっ、全然違うな」

「ひどい……そんなハッキリ言わなくても」

蒼が意地悪く笑いながらも私の後ろから両腕を伸ばす。蒼の鼓動が背中越しに伝わってきて私の鼓動は2倍速になっている。

「俺が左手で月瀬の指の上からコード押さえとくから、月瀬はピックで弦弾いてみて」

「うん……」

左手が蒼の左手で覆われて、体温がじんわり伝わってくる。私は右手のピックを持つ指先に力を込めると一弦から六弦までを一気に弾く。

「あっ」
「おっ」

ようやくギターらしい音が鳴って私と蒼の声が重なった。

「蒼っ!できた!音鳴ったねっ」

「だなっ!上出来」

何度か右手で弦を弾いては蒼を見上げる。

蒼が嬉しそうに笑うのを見れば幸せな気持ちになった。