その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「キス……しようかと思ったけど……初めてはやっぱ、月瀬の一番好きなヤツの方がいいからさ」

私の額から蒼が顔を離すと、私の髪を撫でた。

「な、お礼に月瀬のお願いごと叶えてやるよ」 

「え?お願いごと?」

「うん、何でもいいよ。一個だけ」

蒼に叶えてもらえる願い事……私は迷わず口にした。

「蒼にギターの弾き方教えてほしい!」

「え?ギター?」

「うんっ、私ギター弾いてみたい。このお願い事はきっと……蒼にしか叶えてもらえないから
……」

段々と声が小さくなって尻すぼみの解答になったが、蒼が砂浜にゴロンと寝転ぶとケラケラ笑った。私も真似して隣に寝転ぶ。波の音が背中から伝わるような不思議な感覚がする。

「……じゃあ明日も月瀬迎えにいくから、預けてたギター持ってきて」

蒼が寝転んだまま小指を出した。私もその小指に自分の右手の小指をそっと絡めた。

「約束な」

私が頷くのと一緒に満点の星空から星が一つ流れて消えた。