その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「月瀬ありがとう、こんなに嬉しい誕生日久しぶり」

蒼の顔がまたぼやけそうになって、私は慌てて袖で涙を拭った。

「あと俺の誕生日を泣いて祝ってくれたの月瀬が初めてだし」

蒼がクッキーを取り出すと大きく口を開けて放り込んだ。

「あの、蒼……美味しい?」

「死ぬほど美味い」

「大袈裟だよ」

そしてそのまま蒼が私の身体ごとぎゅっと抱きしめた。 

「手作りのお菓子なんてさ……」

「蒼?」

「死んだ母さんに……作ってもらって以来だなって。だからマジで嬉しいし美味かった。ありがとう」

蒼の心臓と自分の心臓が重なって一瞬呼吸が止まりそうだった。蒼がすぐに身体を離すと私の額に自分の額をこつんと当てた。

「お礼させて?」

蒼のお礼の意味が分からないながらも近づいてきた蒼の顔に私は目をきゅっと瞑る。

どのくらいそうしてただろうか。ゆっくり目を開ければ蒼が優しく微笑んだ。