その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「もう、誕生日くらい私が先に待ちたかったのに……」

「いいじゃん、俺が月瀬待ちたかっただけだし。あと……」

蒼が珍しく頬を染めた。

「前も思ったけど。似合ってる、それ」

蒼の視線が私の着ている水色のワンピースをチラッと見たのが分かった。すぐに蒼よりも私の方が顔が赤くなった。蒼が自転車に跨ると後ろを指差した。

「ワンピースだし乗せてやる」

蒼が私から鞄と紙袋を取り上げるとカゴに放り込んだ。

「えっ……でも二人乗りってダメなんじゃ……」

「ははっ、月瀬は悪いことしたことなさそうだもんな。お巡りさん居ないとおもうけど、見つかったら俺が月瀬の分も怒られてやるから。早く乗れよ」

心臓がとくんと音を立てる。私は蒼の後ろに座ると蒼の心臓を抱きしめるように両手にぎゅっと力を込めた。


夜の海に来るのは初めてだ。お月様の光が海面を仄かに照らせばキラキラと波間が輝く。

「綺麗……」

砂浜に並んで座ると蒼が夜空の星を指差した。

「あの三つ星が並んでんのがオリオン座」

「あ!名前知ってる」

「俺、オリオン座好きなんだよね。神話が悲恋なんだけどさ、誰かを死ぬほど好きになれるってカッコいいなって……いつか俺も誰かを心から好きになるのかな」

その言葉に少しだけ心が泣きそうになる。蒼がいつか誰かを心から好きになることがあるとしたらきっとそれは私ではないから。

「……蒼ならきっといつか誰かを心から好きになって一生大事にするんだろうなって私は思うよ……」

「ふっ……ありがとな……いつも誕生日ここに一人だからさ、月瀬が隣にいると……なんかいいな」

蒼が一人より私と二人で過ごす誕生日でよかったと思ってくれてることがすごく嬉しかっ
蒼が夜空をもう一度見上げた。 

「明後日、小さいけど流星群が見れるんだ」 
「そうなの?見てみたい」

「じゃあ明後日、また二人で星見にこよ」

「うんっ……あ!」 

「え?月瀬どうかした?」

私は手に持っていた紙袋を蒼にそっと差し出した。

「ん?あ、シャツ?ありがとな」

「あのね……そのシャツと一緒に……えと」

心臓が高鳴って声を発すれば心臓と一緒に喉から出てしまいそうだ。蒼が紙袋の中に手を伸ばすと、あっ、と小さく声を上げた。

「それ蒼に作ってみたの……美味しいかわからないけど……誕生日おめでとう」

「月瀬すっげー嬉しいっ」

蒼の言葉にほっとして緊張から涙が一粒転がった。蒼が眉を下げて私の瞳から涙を掬った。