その物語のタイトルはいま君の掌の中に

海辺に夕焼けが沈むのを眺めながら私と蒼は自転車で並んで走っていく。

私の家のすぐ近くの急な坂道に差し掛かって私は自転車にブレーキをかけた。

「蒼、送ってくれてありがとう。もうこの坂道登ったら家だから」

私は坂の上に見えている緑の瓦屋屋根の二階建ての戸建を指差した。

「一応恋人同士なんだし、彼女送るのって普通だろ?家帰っても暇だし玄関まで送る」

蒼も自転車をおりると私の隣に並んだ。

「でもこの坂道結構キツイよ?」

「あー、確かにな、腹筋にくるな。気紛らわせるのに、しりとりでもする?」

「あはは。じゃあせっかくだから簡単な質問し合いっこは?」

蒼がすぐに唇を持ち上げた。

「あ、それいいな。じゃあ俺からな。月瀬の血液型は?」 

「B型」

「え?マジかA型かと思った」

「蒼は?」

「え?俺AB」

「嘘!意外っ」

「なんだよ、意外って」

たわいない蒼との会話はいつも俯きながら登る坂道さえも魔法をかけられたお姫様みたいに心が踊る。