その物語のタイトルはいま君の掌の中に

そのあと、蒼がせっかく来たから読書してもいいよと言ってくれた為、私は久しぶりに『灰かぶり姫』を一読し、別の本取りに行こうと立ち上がれば隣の蒼はスマホを握りしめながら、いつのまにか机に頭を預けて眠ってしまっている。

(子供みたいな寝顔だな……)

私と同い年の蒼だが、年上の女の人と付き合ったりしているせいか大人びて見える。でも初めてみる寝顔は幼く見えた。

(あれ?)

さっきまで蒼が触ってスマホは開きっぱなしになっていて画面には、ギターの弦が表示されている。

(……もしかして作曲アプリ?)

蒼のスマホを覗き込もうとして、蒼がパチリと瞳を開けた。

「わっ」

思わず大きな声が出て両手で口を抑えた私を見ながら蒼がクククッと笑った。

「もう、蒼、寝たフリしてたの?」

蒼が体を起こすと、うんと伸びをした。

「寝たフリって言うか冥想だな、なんかちょこちょこ音落ちてきたから、忘れないうちに入力してたり、寝てたり」 

「もうっ、やっぱり寝てたんじゃん」

「まあな」

「ねぇ、蒼のそれ、ギターの弦だよね?アプリで作曲できるの?」

「うん、弦が表示されてるからそれタップしていくと音源っていうか、下書きできるからさ、ギター持ってないときとか、授業中とか?これやるんだ」

「授業聞いてないじゃない」

「あはは、バレた?勉強興味ねぇからな」

蒼が子供みたいにふざけながら舌を出した。