その物語のタイトルはいま君の掌の中に

「あとで俺の好きな曲教えるから、先に月瀬の好きな本教えてよ。あ、なんならここで小説書いてみせてくれてもいいしさ」

「小説っ、そんなすぐに無理だよ……えとじゃあ私の……好きな本でもいい?」

「勿論、なんでも月瀬のこと知りたいから」 

私のことを知りたいと言ってくれる蒼の言葉が素直に嬉しくて、蒼といると心臓がすぐに騒がしくなる。

「取っておいでよ」

蒼がにっと笑った。

私が迷わず本棚から選んだのはグリム童話の『灰かぶり姫』だった。手に取り席に戻るとすぐに蒼が覗き込む。

「灰、かぶり?姫?」

「うん、シンデレラって言った方がわかりやすいかも。灰かぶり姫はグリム童話で、灰かぶり姫を易しく子供向けにしたのがシンデレラなんだけどね」

何ももっていない女の子が王子様に見染められ、いつまでも幸せに暮らすお話は、何度読んでも幸せな気持ちにさせてくれる。

だって現実世界ではどうせ私には起こり得ない話だから。せめて本の世界では幸せな気持ちに浸りたい。何もない現実世界から目を逸らしたい。

「成程な、女の子は好きだな、王子様がいつか迎えにきてくれるってやつ」

王子様みたいに綺麗な顔をしている蒼に言われると途端に恥ずかしくなった。

「てことで……もういいかな?」

開いていた本を閉じて小さく呟いた私に蒼が肩をすくめた。

「あー、ごめん。茶化した訳じゃなくて……その……」

「蒼?」

「女の子らしくて……可愛いなって思っただけ……」

「あ、えっと……」