「それにさ、月瀬と一緒で、唄も流行りはラブソングなんだけどさ。俺も恋愛なんてしたことないから……」

「え?そうなの?」

思わずそう蒼に訊ねていた。蒼はハッキリいって端正な顔をしている。きっと女の子にモテるんじゃないか、そう思った。

「あ、彼女いたことは、その……結構あるけど、適当な関係だったから……って最低だよな」

蒼が頬を掻きながらバツの悪そうな顔を浮かべた。

「ま、てゆうことでさ、俺は誰にも届かない唄なんか歌ってもしょうがないからコレ捨てんだよ」

蒼が立ち上がるとギターを持つ。そして海へ向かってギターをもつ両手を高く上げた。

「蒼くん待ってよっ!」

私は蒼の両手にしがみつくと、ギターを抱え込んだ。

「ちょ……離せよっ」

「蒼くんが、要らないなら私が貰う!」

「は?なんで月瀬にやらなきゃいけねぇんだよっ」

「捨てるんでしょ!じゃあ貰うっ!」

「ダメだ!これは俺の夢だから俺がちゃんと自分で捨てなきゃ意味ねぇんだよっ!」

蒼が私から再びギターを取り上げた。そしてそのまま足首まで海に入っていく。

「やめてっ!夢捨てないで!」

蒼の切長の瞳が大きくなった。そして暫く蒼は私をじっと眺めてから砂浜に戻ってくると、私にギターをそっと渡した。