そろそろバスティア王国にいる両親に手紙でも出さないと………と考えていた時だ。

 ひとりの旅人がやってきた。フードを目深にかぶり、キョロキョロと辺りを見回している。初めてのお客様のようだ。私の方を見て息を呑む気配がした。
 気のせいかと思って掃除を始めると、女将さんが愛想よく声をかける。

「いらっしゃいませ〜! ご予約のお客様ですか?」

 それなのに女将さんを無視して、私の前まで大股で近づいてくる。なにか粗相でもしたかと思うけど、今来たばかりのお客様なので心当たりがない。

「……と見つけた」

 こぼれ落ちる掠れた声は。

「ユーリ。やっと見つけた……!」

 私を抱きしめる逞しい腕は。フードが外れてあらわになったサラサラの艶のある銀の髪は。煌めくサファイアブルーの瞳は。

「フレッド……」

 恋しくて恋しくて今でも胸の奥を締めつける。
 誰よりも大切な人だった。