それから私は従業員用の部屋へ荷物を移して、新しい生活を始めた。

 朝早く起きて朝食の準備を手伝い、それが終わったらチェックアウトした客室の清掃だ。清掃の後は大量の洗濯をこなして、宿泊の予約をしているお客様の確認して昼食を急いで平らげる。

 宿泊のお客様が来る前に部屋の準備を整えて、夕食の準備を手伝った。チェックインしたお客様のご要望をひと通り聞き終えて、なにもなければ夕食をとりやっと休むことができる。

 目の回るような忙しさだったけれど、あっという間に一カ月が過ぎた。身体を動かしているうちに悲しくて涙をこぼすこともなくなった。

「本当にユリちゃんが来てくれて助かってるよ! こんなに働き者だと思わなかったわ」
「そうだな、ユリちゃんの用意してくれた化粧水も好評で、お客様も増えたもんなぁ」

 女将さんとご主人にはとてもかわいがってもらっているので、宿屋の売りになればとオリジナルの化粧水を作って客室に常備した。すでに帝国では私の開発した化粧水が数多く出回っているので、これくらいなら目立たない。
 この宿オリジナルにすれば、お客様が増えると見越したのだ。

「いえ、私が一番つらい時に優しくしてくれたので、恩返しができたらと思ったのです。お役に立ててよかったです」
「もう、本当にいい子なんだから! そんな見る目のない奴はあたしがぶっ飛ばしてやるよ!」

 女将さんの力こぶを見て笑いながら、もし前世で両親が生きていたらこんな感じだったのかなと思った。