彼の真意がわからなくて答えられずにいると、話を聞いていた文博さんが「どういう意味ですか?」と聞いてくれた。

 すると遼生さんは目を伏せ、ゆっくりと口を開いた。

「実は四年前、交通事故に遭ってから一部の記憶を失ってしまったんです」

「失ったって……記憶喪失ってことですか?」

 聞き返した文博さんに対し、遼生さんは小さく頷いた。

「本当に一部だけなんです。身近な人のことは憶えていましたし、生活するにあたっての記憶も残っていました。その一部の記憶がなんなのか、誰のことなのかもわからない状態でして……」

 遼生さんの話は本当なの? でも記憶喪失なら私のことを覚えていないことにも納得がいく。

「それは大変でしたね。お身体は大丈夫なんですか?」

「はい、幸い大きな怪我は負わなかったの。ただ、記憶に関しては医者からは無理に思い出そうしないほうがいい。なにかのはずみで急に思い出すこともあるからと言われましたが、一向に思い出せずにいて……」

 思い出せないことが悔しいのか、遼生さんは唇を噛みしめた。

 どう見たって遼生さんが嘘を言っているようには思えない。しかし遼生さんが記憶喪失で私のことを忘れていたとしても、それが私と別れる前なのか別れた後なのかまではわからない。

 でも彼から一方的に別れを切り出された日の前夜に電話で話をした。その時までは私を覚えていたことになる。

 では別れた後に記憶を失った可能性が高い。だったら変に困惑はさせないほうがいいはず。それに私としても遼生さんに忘れたままでいてくれたほうが、やっと諦めもつくのかもしれない。

「そうでしたか」

 そう言うと文博さんは困惑した表情で私を見た。