大橋建設の始まりは、祖父が大工だった工務店時代に遡る。センスの良さと丁寧な仕事が評判で、生涯現役を貫くような人物だ。

 主に木造住宅を中心に請け負っていたのだが、マンションやビルの施工業者の偽装や手抜き工事の噂が業界で流れた。

 後にマンションの耐震偽装問題が建設業界を揺るがすのだが、祖父はかなり早い段階で一部の業者の動向を不審に思っていた。今後の業界のことを心配し、自身の立場を確立するために会社規模を拡大し、マンション事業にも乗り出したのだ。

 孫に当たる瑛斗が生まれた頃の話だ。

 祖父と父が、寝る間も惜しんで働き、今では信頼と実績では業界でトップクラスの大橋建設だが、この業界ではまだまだ新参者扱いなのだ。

 今でも祖父は現場に赴き、職人の育成に携わっている。そんな祖父の姿を見てきた大橋家次男の瑛斗は、会社を継ぐことには興味がなく、未だに現場に出ることも珍しくない。

 祖父が会長、父が社長、兄が副社長で、瑛斗は専務という立場だ。