その後も現場で、若い大工を見掛けるが、挨拶程度で会話をすることはない。助っ人と言っていた彼は、毎日は来ていないようだ。

 気にはなるが、仕事優先で恋愛にあまり興味がない優は、深く考えることを止めた。前回の発言も若干尾を引いている。

 まさかイケメン俳優のような大工の彼が、現場のマンションを施工した大橋建設の専務だとは思いもしない。知ったところで、優には関係ないのだが……。

 慎のお陰で今回も順調に進んでいる。優がこの現場に来るのもあと数回だろう。

 完成した部屋を見てお客様の喜ぶ顔を見るのが、優にとって何よりも楽しみであり、緊張する瞬間でもある。

 『お客様が100%満足する部屋』をモットーに、優はお客様からの要望だけでなく、日常生活の話を聞いてアドバイスしていく。理想ばかりを詰め込んだ部屋では、実際住み始めると不便なことも多いのだ。

 優の行き届いた仕事が評判で、常にたくさんの案件を抱えている。