◯御子柴家 翌日


舞がリアムの部屋の前の廊下を横切る。

リアム「WHAT THE FREAK!!!!!」
舞(英語を話してる…? やっぱり、リアム的には日本語よりも英語の方が使いやすいのかな)
リアム「How should I do this!! Math is so difficult in japan... There's NO WAY」
舞(…なんかブチギレてそうな勢いだけど、大丈夫そ?)


舞がリアムの部屋のドアをノックする。
舞が、「入ってもいいか」と聞く前に、リアムがその音を聞きつけて、ドアを開ける。

リアム(やっぱり舞だ…!!!)

”舞の姿を見た”ことで、先ほどまでの剣幕は遠く彼方へ行き、代わりに一気に笑みが広がっていくリアム。そんなリアムを真顔で見つめている舞。

舞「どうした? なんか部屋から声が聞こえたけど…」
リアム「今日も舞は可愛いね」
舞「…話、聞いてる?」

リアム(…どうしよう、数学の問題がわからないけど、大好きな舞の前では見栄を張りたいっていっていう気持ちがある…。でも、教えてほしいって頼んだら、少しでも舞と二人でいられる時間が増えるじゃん! 聞くだけ聞いてみよう!!)
「あのさ、ここを教えてもらえないかな…?」

リアムは、机に広がっている数学の問題集の問題のうちの一つを指さした。

舞「数学? それなら全然教えてあげられる」
リアム「ありがとう!」
舞「昨日、私も英語を教えてもらってるし、全然」

舞がリアムの勉強机の横に立つ。舞が座れる椅子がないことに気づいたリアムが、すかさず自分の椅子を譲る。

リアム「座って」
舞「いや、いいよ」
リアム「じゃあ半分ずつで一緒に座らない?」
舞「…だいじょぶ」
リアム「僕の膝の上もあいてる!!!!! どう!!!???」
舞「…いい。」
リアム「…わかった」
(必死になってかっこ悪い…今までの僕とは感覚が違いすぎて、不思議な気分。こんなに女の子に、物理的にも心理的にも近づいてみたいと思ったのは初めてだよ…。)

リアムが少し落ち込んだような顔をする。

舞(素直に椅子を譲ってもらっておいたほうが良かったかな)

舞「えっとー…どのへんがわかんない?」
リアム「全部」
舞「え」
リアム「微分って何? 積分って何?? ていうかこの問題は僕に何をしてほしいの???」
舞(想像以上だった…)
リアム「…僕なりに頑張って授業とかも聞いてるんだけど、アメリカの授業ではこんなことをやらなかったからさ…。」
舞「そっか、カリキュラムが違うんだね。」
リアム「うん、多分。」
(…こんなに数学が難しいと思ってなかったから、国語の対策しかしてこなかったよ)

舞が問題集を覗き込むように見る。かがみ込んだため、舞の口元がリアムの耳元くらいの位置まで降りてくる。

舞「うーんと、まずここは…」
リアム(待って近くない…? 舞からこんなに近づいてきてくれるなんて…吐息もわかるよ。)
舞「…そうすると2で…」
リアム(僕の鼻息、聞こえてないよね…? 息を止めたほうがいい???)
舞「………だから…」
リアム(息が詰まっちゃう、空気が足りない…)
舞「…てこと。わかった?」
リアム(やっばい全然聞いてなかった!!!)
「待って!?」

リアムが舞の方へと振り向いた。舞が、問題集が見えるようにと覗き込んでいたらいつの間にか近づいていってしまっていたために、舞の顔はリアム顔のすぐそこにあった。そのため、後ろを振り向いたリアムと舞が至近距離で見つめ合った状態になる。想像以上に密着して勉強をしていたことに驚く二人。

舞とリアムの顔が赤くなる。
リアムが思わず顔を近づけようとして留まった。


リアム「ごめんっ」
舞「…大丈夫。あんただって日本の感覚になれるのに時間はかかるだろうし。」

リアム(いや、今は普通に口にしようとしてたし…あの状況で頬にキスするアメリカ人なんていないし…。アメリカ人がどうこうじゃなくて単純に僕の下心でしようとしてた…余計に罪悪感)
舞(アメリカ人の感覚は違うんだろうな―。ちょっとずつ慣れてくれればいいんだ、)


物寂しげに、舞が人差し指で自分の唇を触った。