○次の日 御子柴家(朝)
○舞とリアムの部屋の前の廊下

舞「あ…おはよう…。」
(最悪だ。寝起き、見られた。ブサイクだってバカにされそう…はぁ。)

リアム「おはよう!!!」


リアムが舞のことをフワッと抱きしめる。
リアムから漂ういい匂いに思わず"きゅん"を錯覚しそうになる舞だが、すぐに現実に戻る。


舞「ちょ、ちょっと!」
リアム「なにー?」


リアムがわざとらしくにやにやする。
舞の顔が赤くなる。


リアム「顔、赤いよ。」


それを聞き、ますます恥ずかしくなる舞。


舞「ねぇ、絶対わかってやってるよね? 急に抱きついてこないでっ…!!!」
リアム「ごめんごめん。アメリカだと…」
舞「…ふつーなんでしょ? でも昨日、私ちゃんと言ったよね、ここは日本なんだからあんたも適応しなさいっ…て。」


力の強いリアムの腕からなんとか抜け出した舞。


舞「ていうか、学校では絶対にこういうことしないでね。あくまでホームステイ先の娘とホームステイしに来た人、って関係だから。」
リアム「はいはーい。」

舞(ほんとに分かってんのかな…?)


階段を下るリアムと舞。


舞「それから、クラスメイトの女の子に、こういう風に馴れ馴れしくしたらダメ。みんな勘違いしちゃう。ハグ・キスはもちろん、名前の呼び捨ても厳禁!!!」


舞がくるっと後ろを振り向いて、腕でバツマークを作る。


リアム「なんだか束縛されてるみたーい。舞、僕が人気者になるのわかってて、嫉妬してるんでしょーっ」

舞(自惚れナルシストめ…)



リアムと舞がリビングに入ってくる。
舞は台所へと向かい、リアムはそっちのけで、朝ごはんを作り始める。

(舞父は玄関にいる。)


舞「あ、お父さんおはよう」
リアム「おはようございます。」

舞(ナルシストの上に猫かぶり野郎だこいつ…)
あきれた目でリアムを見る舞。

舞父「おはよう。仕事、行ってくるねー」
舞「いってらっしゃーい。」




ー ー ー



手際よく朝食を作り終え、テーブルに配膳する舞。
四人掛けのテーブルに、リアムと舞が向かい合うように座る。


リアム「おー、いい匂い。おいしそう!」
舞「…ありがと。」

リアム「食べていい?」

目を輝かせて食い気味のリアムと、それに対して少しばかり引き気味の舞。

舞「どうぞ…」
リアム「いただきます!」

リアムが朝食をかけこむように食べる。

舞「のどに詰まらせないでよね。」
リアム「めっちゃ美味しい!」

舞(私の話、聞いてる…?)

リアムが思わず身を乗り出す。

リアム「本当においしい!」


ガタッ、と物音が立つ。リアムが立った時に動いた椅子の音だった。さっきよりもさらに近い場所で、純粋無垢な目で舞をまっすぐに見つめてくるリアム。もともと綺麗なブルーアイの瞳が、よりいっそうキラキラと輝いていることがよくわかった。
舞(この人、こんな顔もするんだ…)
一瞬、ほんの一瞬だけ、胸がどきっと高鳴った舞。

舞「分かったってば…。」

舞が少し照れたが、リアムは気づかずご飯を食べ続ける。


リアム「料理が得意な人ってすごいな…。」
舞「食べるの好きなの?」

リアムの顔が少し陰る。

リアム「…うん。…結構、イメージと違うって言われちゃうんだけどね。」
舞「ぶっちゃけ驚いた。」

舞がみそ汁をすする。

リアム「だよねー、一生懸命隠そうとはしてるんだけど…。」
舞(いやいや、超わかりやすく『食べるの好きです』って顔に書いてあったけど。)
「別に隠す必要なくないー?」
リアム「なんで?」
舞「え、だってそれがあんたの好きな事なんじゃん。イメージと違う、って相手が勝手にあんたのイメージを作って、本当の好きな事とかを知ろうとしなかっただけだし。」

いかにも、『当たり前でしょ?』というように舞が言う。
リアムの動きが一瞬、止まる。

リアム「確かに、その通りだね。」

リアムが、心の底からの笑顔を浮かべる。


リアム「そろそろ学校に行く時間だー。」
舞「え、嘘でしょ?」
リアム「ほんとー。」
(舞って意外と抜けてるんだなー。…意外と、ってそれもイメージの押し付けか。)
舞「ヤバいどうしよう私まだパジャマなんだけど!!」

慌てて席を立ち、階段の方へ向かう舞。

リアム「着替え、てつだおーか?」

ニヤリと笑うリアム。

舞「遠慮します!!!」


御子柴家のリビングに、そんな舞の叫び声が響いた。