〇翌日(バレンタイン当日)
〇デパ地下 夕方


”バレンタインチョココーナー”という看板がぶら下がっているフロア。

リアム(さんざん悩んだけど、やっぱり僕は、気持ちを伝えたい。)

真剣な顔でチョコレート売り場を歩いていくリアム。

リアム(うーん、どんなチョコなら舞が喜んでくれるのかな…?)

リアムが、”自分で詰め合わせ‼ 大切な人へ、自分でチョイスしたい‼”という、あるチョコ店のポップを見つける。

リアム(これがいい)

リアムが店員の方へ歩いていき、オーダーする。リアムは6個包装のボックスを選んだ。店員がチョコ表を見せる。

リアム(この間、舞がビターチョコが好きって言ってたよね)

リアムは、ハート形のチョコと苦いビターチョコを三つずつ選んだ。店員が後ろの工房で手際よくチョコレートを包んでいく。

店員「お会計ありがとうございました」

店員から箱を受け取り、リアムは家に向かって歩き始めた。



○御子柴家
○ダイニーングルーム 夕方


舞が家に帰ってくる。

舞「…ただいまー」
(どうしよう、本当に告白するんだって思うと緊張してきた…ていうかフラれたらどうするんだ? あと数ヶ月フラれた相手と同じ家に住むとか無理過ぎない?)

夜ご飯を食べようとしていたリアムが、舞が帰ってきたのを見てそわそわしだす。それから、真横に置いておいたチョコレートの箱を手に取った。


舞・リアム(本当に告白して、大丈夫かな…)
リアム「お、おかえり!」
(どうしよう、声が裏返っちゃった)
舞「ご飯…食べよっか。待たせちゃってごめん」
リアム「ううん、大丈夫」

舞が学生カバンを置く。それから学生カバンの中に入っている、さっき香織の家で受け取ってきた”手作り本命チョコ”に手をかけた。一瞬ばかり躊躇ったが、やっぱりちゃんと手で持った。
舞がリアムの向かいの席に着く。


舞「いただきます」
リアム「いただきます」

舞(どのタイミングで告白しよう…)

リアム「舞、チョコレート。あげる。」

リアムがどこか清々しいような満面の笑みで、チョコレートを渡す。驚いた舞は、思わず顔を上げる。しかし、それからすぐに思いなおした。

舞(アメリカじゃ、バレンタインに告白をする、という文化が無いのかもしれない)

舞も、膝の上にのせておいた自分のチョコを机の上に置く。
それから、笑い飛ばすような言い方をした舞。

舞「あーアメリカだと、逆なんだっけ? 義理チョコありがとー私からもはい!」
(なんでこんな風になっちゃうんだろう。なんで思ってることが口にできないの? いつも。いつもそう)

舞は、テーブルの下でこぶしを握った。思わず下をうつむく。

リアム「違う。」

リアムが、さっきとは打って変わって真面目な表情で舞を見つめた。

舞「え?」
リアム「アメリカじゃ、男子が"本命の"女子にだけあげる。」
舞「は??」

困惑して、理解が追いつかない舞。

リアム「好きだから。心の底から、愛してるから。だから、渡したいって思った。舞は、受け取ってくれないの?」

まっすぐ、舞の瞳を見つめるリアム。自分だけに向かって、一直線に飛んでくる言葉に感涙してしまう舞。泣き始めた舞を見て目を見開くリアム。

リアム「ごめっ…」
舞「私のだって本命だし! 私も好きだバカ。」


リアムが身を乗り出して、向かい側に座る舞へ、ゆっくり顔を近づける。
あふれ出る涙を手で拭う舞。リアムが、舞の顔を覆い隠している(舞の)手をそっとどける。

舞がそっと顔を上げた。至近距離で見つめあう二人。それから、リアムが舞へと唇を近づけ、キスする。触れ合ったのは一瞬でも、リアムがずっと待ち望んでいた瞬間だった。


リアム「やっと口にできた。これから容赦しないから。」

妖美な笑みを浮かべるリアム。

舞「容赦しないってどういうこと…!」
リアム「あー、もう泣かないでよ」

優しい微笑みを舞に向け、リアムが舞の頬を伝う涙をペロッと舐めた。
舞が、恥ずかしさから、顔をリアムの肩にうずくめた。