○翌日
○学校 授業中

数学教師が教壇に立ち、授業を行っている。横に座るリアムは、日本の勉強に置いていかれないようにと必死になって授業を聞いていた。そんなリアムを横目に、舞は小さくため息をつく。

舞(…今日の私の頭の中はリアムでいっぱいだ。)

特に意味もなく消しゴムで遊びながら思考を整理する。

舞(何か違和感…っていうのかな。昨日、あれからリアムに対する気持ちって言うのが数時間の間に大きく変わった気がする。いや、きっと、もっともっと前から気持ちに変化は起きていたんだ。気持ちが抱えきれないほどまで大きくなって、初めて自覚を持った。多分、これが正解なんじゃないかな。…うん、この気持ちに言葉をつけるならば―――




これはきっと恋だ。)





〇帰り道

学校を出てから十分ほどたったころ。緊張した趣の舞。

舞(きっと、香織に相談するのが一番いい)
「あのさ…香織。」
香織「どうした、舞ちゃん?」
舞「あの…私……。」

急に勇気が無くなって、地面を見つめた。それから、意を決したように香織の方を向く。

舞「わかんないんだけど、、わかんないんだけどね。」
香織「うん」
舞「好き、かもしれない、あいつのこと」
香織「うん」
舞「好きって言いたい、あいつに」
香織「うん」
舞「でも、どうすればいいかわからない」

舞が立ち止まる。数歩前に出ている香織が、舞の方を振り向く。

香織「舞ちゃん…! 今日の日付は何ですか!」
舞「…? 2月13日だけど…」
香織「舞ちゃん! 明日は何の日ですか!」
舞「…2月14日だけど……あ!」
香織「そうだよ! 明日はバレンタイン!!!」

満面の笑みの香織が、舞に近づいてくる。
背が舞よりも低い香織が、舞を見上げているような形になる。

香織「舞ちゃん、せっかくの”イベント”、使って告白してみたら?」
舞「作る!!」

舞はすぐに、食い気味で返事をした。



〇舞の家 夕暮れ時
舞(あれから香織の家に行ったら、材料がもう用意されていたから驚いた。もともと友チョコを作る予定だったらしいけど――)

舞が靴を脱いで、玄関をあがる。

舞(香織の家で、私のチョコがちゃんと固まってますように)

リビングへの扉を開ける舞。

舞「ただいまー」
リアム「あ、舞! おかえり」

リアムが匂いを嗅ぎつける。舞からその匂いがすると分かったリアムは、舞の方へ近寄る。

リアム「んー! いい匂いするー! これは…あ…そっか。」
(チョコレートの匂い。明日、バレンタインだしね。もらえる奴が羨ましい。きっと僕は、舞から何も貰えないんだろうな…)

少し寂し気な表情を浮かべるリアム。それから、舞の頭に手を置いて、頭をなでた。

リアム「かわいいね。」
(恋する乙女は健気でかわいい)

舞「う、うるさい」

そっぽを向く舞。

舞「ちょっと、手、どけてよ」
リアム「えへへ、ごめんごめん」

舞がリアムの腕をつかんで、リアムの腕をどかそうとする。ただ、リアムは腕をどかす気が無い。

舞「もーっ」

すると、リアムが足をくじいてバランスを崩してしまった。リアムの腕をどけようと、リアムの方へ重心をかけて力を入れていた舞も、一緒に倒れてしまう。後ろにソファがあったため、舞がリアムを押し倒してソファに飛び込んだような形になってしまった。近距離にあるお互いの顔を見て、驚く二人。

お互いの顔が、赤くなったことがよくわかった。

舞(なんでリアムの顔が赤くなってるの…?)
リアム(なんで舞の顔が赤くなってるの…?)