スイくんの地元は自然豊かでのどかなところだ。


 車から出たときに聞こえてくる音は、柔らかな風と小鳥のさえずりだけ。


 落ち着くなぁ……。



「緋織先輩、荷物持ちます」

「大丈夫! 最低限しか持ってきてないよ!」

「いいですから、貸してください」

「あっ」



 ひょいと荷物を奪われる。


 そうやって優しくされたら、胸がむずむずして変な感じ。



「じゃあ私がスイくんの荷物持つよっ!」

「結構です」



 付いてきてと言わんばかりの背中が前を歩いた。



「ごめんね緋織ちゃん。スイくん、ママ達にもあんな感じなの」

「いえ、そんな」



 そっけないっていうのはそうなんだけど、冷たい人だとは感じない。



「……素敵な男の子だと、思います」



 背中を眺めながら呟く。


 スイくんのお母さんは同意するように笑っていた。



「ねえ、早く家の鍵開けて」



 スイくんが玄関扉の前でこっちを振り向く。



「あらら、ちょっと待ってね~……あれ?」



 バッグをゴソゴソ漁るスイくんのお母さん。


 表情がだんだん余裕のないものに変わっていく。



「は? 母さん、まさか」

「あるのよ!? 絶対にある! 確かここに、ここに……あった!」



 バッグから抜き出されたキーホルダー。


 そこに鍵は、付いていない。



「うそ! ちぎれてる!?」

「はぁ……でたよ」

「パパ! 持って……」

「ないなぁ、わはは」



 絶望の空気が流れ始める。


 ……家、入れないって、こと?