「スイくん、ちょっと部屋の掃除させてもらってもいいかな」
休日のお昼頃。ノックをして入ってきたのはおばさんだった。
俺は宿題を進めていた手を止めて招き入れる。
「そろそろ本棚、整理しないとと思ってね」
あぁ。本棚の手入れをしていたのはおばさんだったのか。
今までのことを振り返ってみれば、確かに緋織先輩ではなさそうな雰囲気はある。
彼女が自分の父親の話をしているときは、少しそっけなくて冷たい印象だったから。
あまり好意的に思っていないのかもしれないと、微かに感じ取ってはいた。
「見られたくないものがあるなら今の内に隠しといてね」
「な、ないですよそんなの」
「そう? なら安心」
おばさんは本棚の上からホコリを落とし始める。
俺の座るイスはその真後ろ。背中合わせで二人きり。
少し緊張する。
「もうすぐ緋織も帰ってくるでしょ? 二人でお昼食べに行ったら?」
緋織先輩は運動部の練習に借り出されている。
そろそろ大会が始まる季節だから、さらなる力を付けるために彼女が必要なのだろう。
「三人で行きませんか?」
「私はいいわ。邪魔だしね」
「そんなことないです」
「邪魔なのは二人の方だったりして」
「え?」
「ふふ」
冗談……じゃないよな、この感じ。
笑ってごまかされたけど。
「じゃあ食事デート……してきます」
「うん、そうしといて」
「……」
「……」
沈黙が訪れる。