「……あ」



 突然、スイくんが私の腕を掴んだ。


 服の袖を捲られる。



「骨折じゃなくても、擦り傷とか……ほら、ありましたよ」

「……」

「早く手当て……緋織先輩?」

「……」



 カチーン。


 私の体は固まって動かない。


 擦り傷なんて、ほっとけば治るものだと思ってる。


 だからほっといてほしい。


 優しくしないでほしい。


 触られた部分も、顔も。


 全部が熱くて、痛い。



「……っ、」



 置いていかれるのが嫌だからこそ、置いていくのも嫌。


 私の気持ちだけどんどん進んで、スイくんが追い付いてくれないのは、嫌だよ。



「す、スイくんは、好きな子、変わることってあるのかな……?」



 スイくんが好きになるんだから、素敵な子に違いないんだろうな。


 私のこと見てくれる可能性は、少しもないかな……。



「え……と。どういう意味かは知りませんけど」



 ふいっと目を逸らされた。


 それだけで嫌な予感がした。



「変わりませんよ。変わることなんて、ありえません」

「あ……」

「……すみません。諦め悪くて」

「……ううん。謝ることじゃ、ないよ」

 

 いいことだと思う。


 スイくんにずっと想われるなんて羨ましいよ。



「……手当ては、自分でするね」



 スイくんの腕を払う。


 ズキン、ズキン。


 痛いよ。


 やっぱり感情って、楽しいだけじゃいられないね。


 でもね、もう。


 スイくんだけは、誰にも譲りたくないって思うんだ。


 これって恋かな、……執着かな。