それがちょっとしたストレス解消となって、何度も思い切り腕を振る。


 次第に大ちゃんも勢いを合わせるようになってくると、豪速球のラリーが空を飛び交った。



「はぁ、はぁっ、なかなかやるね大ちゃんっ!」

「こちとら何年も緋織の相手してんだよ、なめんな……!」



 お互いの実力を認め合い、友情が深まっていく。


 一時的に心がすっきりしたところで、昇降口からグラウンドまでの道に人影が現れた。


 急ぎ足で駆けてくるその姿は、私が待ち望んでいたその人だ。



「あっ、スイくんっ!」



 持っていたグローブとボールを大ちゃんに押し付け、私からも走って近付く。



「は、ぁ……お待たせしました、緋織先輩」



 本当に急いでくれたのか、少し息があがっている。



「全然待ってないよっ! それより大丈夫だった!? 嫌なことされてないっ!?」

「大丈夫です。誘いも断れました」

「えっ、じゃあ、新聞部には入らないの?」

「入るわけないですよ」



 ぶわっと、全身の不安が溶けて喜びが込み上げてきた。


 入らないんだっ……! 成世先輩の後輩にはならないんだっ!



「えへ、やった……」



 思わず笑顔がこぼれる。


 スイくんは目を大きく見開いてから、控えめに私の頭を撫でてきた。


 優しく頭を滑る手の感覚が心地良い。


 先輩扱いされてない気がするけど、今だけは許しちゃう。