「……ども」



 ボストンバッグを肩にかけ、黒いキャップを深く被ったスタイルの良い男の子が立っていた。


 彼はキャップのつばを摘まみながら、軽くペコリと頭を下げる。



「スイくんですか!?」

「……そーです」

「えー! えーっ! なんか背伸びたね!?」



 今年のお正月に会ってから二ヶ月ちょっとしか経ってないのに、目に見えて変化がある。


 私はスイくんの周りをぐるぐると動き回って、隅々まで観察した。



「髪もちょっと切った!? ていうかそのキャップかっこいいね! あ、荷物重いよね! 早く入って!」

「はい」



 相変わらずクールなスイくんは私の早口まくし立てにも動じない。スラッと長い足を前に出して、玄関へ踏み出す。



「お邪魔します」

「『ただいま』!」

「は、……?」

「今日からここがスイくんの家なんだから、ただいまって言ってほしいなっ!」



 リピートアフターミー!


 にこにこして待っていたら、スイくんは若干嫌そうに目を細め、



「……ただいま、です」

「うんっ、おかえりなさい!」

「はぁ……」



 ふかーいため息を吐かれてしまう。


 でも、言ってくれてすごく嬉しい!



「初日だからね、おもてなしはするよ! リビング行こっ、お母さんも待ってる!」

「あの」

「ん?」



 先導してリビングへ行こうとするわたしを呼び止めるスイくん。



「俺、ほとんど押し掛けるみたいな形で来てますけど、嫌じゃないんですか」



 左右対称の整った瞳がわたしを見つめてくる。