「大ちゃんはね、あ、大吉(だいきち)って名前だから大ちゃんなんだけど。私の幼なじみで、家も近いよ!」

「……そうなんですね」



 どうでもいい。


 どうでもいいやつの話なんてしないでほしい。


 せっかくのデートだと思ったのに、気分が落ち込んでしまった。


 ただそれを悟られると緋織先輩に心配をかけてしまうので、ポーカーフェイスを保つ。


 感情を表に出せないのはデメリットだと思ってたけど、こういうときは役に立つんだな。



「……て、ていうか、ね」



 緋織先輩が立ち止まる。


 なにやらもじもじと落ち着きがなさそうにしている。



「え、えっと。せ、先輩って、緋織先輩って、呼んでくれたの……嬉しかった」



 いつもと違って俺を見ることはなく。


 ふわりと、頬を赤くしてはにかんだ。


 ハチミツよりも甘いときめきが、俺の全てを支配する。


 照れてる?


 あの緋織先輩が?


 昨夜俺と同じ布団を共有しても照れなかったこの人が?



「っ……い、いくらでも呼びますよ、そんなの」



 可愛い。


 可愛い、可愛い、可愛い……っ。


 なんで彼女は、こんなに俺を苦しくさせるのが上手いのだろう。


 ガチだよ。ガチでしかない。


 彼女に恋したあの日から、俺の恋心は彼女にしか使っていないのだから。


 きっと、これからもそうであると俺は確信していた。