無心で手を合わせる。


 小さい頃から同じように、お母さんの真似をするだけの時間。


 その終わりが今日。



 ――お父さん、緋織です。

 ――お父さんに言いたいことがあります。



 お墓に対して話しかけるのは、初めてのことだった。



 ――好きな人が、できました。



 それから私はこれまでの全てをお父さんに報告した。


 返事は当然返ってこないから、文句も世間話も言い放題。


 ただの壁打ちだけど、自己満足でしかないのかもしれないけど。


 今まで言わなかったこと、全部、全部、伝えることができた。



 ――お父さんの本、めちゃくちゃつまらなかったです。

 ――つまらないのにバッドエンドなんて最悪です。

 ――けどそんなお父さんにもファンがいたのかなって思ったら、なぜか嬉しいです。



 私の中のお父さんは、スイくんの言う『記号としての親』なのかもしれない。


 だからお父さんのことを知りたい。


 知って、お父さんのことを一人の人間として見たいんだ。


 だから、そうなったときまたお墓参りに来て、楽しい話ができたらいいな。



 ――また来るから。

 ――待ってて。