俺が、いとこである藍月緋織という女の子に初めて出会ったのは。
小学校入学を目前にした、六歳の頃だった。
「この度は御愁傷様です……」
暗い服装に身を包み、母親が頭を下げるのを真似する。
――それは、彼女の父親の葬儀が行われる日。
子供ながらに感じ取れるしんみりとした空気は、他人事でありながら人が死んだという現実として刻まれていた。
そんな中、父親の遺影を前にして呆然と立ち尽くす背中がひとつ。
背丈は当時の俺より大きいはずなのに、広い空間の真ん中にポツンと存在する彼女はとても小さく見えた。
それがどうにも印象的で、声をかけざるを得なかったのだ。
黒いワンピースの裾を引っ張ると、薄く微笑んだ彼女が振り返る。
「……悲しいの?」
「悲しいよ」
「なんで、笑ってるの?」
「泣いたら、悲しくなっちゃうからね」
「悲しいんでしょ?」
「もっと悲しくならないようにしたいんだ」
目線を合わせて、俺の頭を撫でてくる。
気丈に振る舞っているのが丸わかりだった。
――この人、俺が守ってあげたい。
という気持ちが芽生えたのもそんなとき。
しかし無力な子供にできたことといえば、
「これ……あげる」
ポケットに入っていた個包装のドーナツを渡すくらいだった。
「私に?」
「おいしい、から」
「……、うん、ありがとう」
ふわりと笑う姿。見たかったはずの姿。
まだ儚さが残っていることに、チクリと胸が痛んだ。
だから決めたんだ。
俺が絶対、彼女を毎日満面の笑みにするような存在になろうって。