「おい、幸野、酔ったか?」

「いえ。久我先生、いい匂いするなあって。もし逆の立場なら久我先生のお尻、触っていたかもしれません」


 心配してくれる久我先生に冗談まがいなことを言えるくらいには、距離は縮まったような気がする。ただ、ずっと目を合わせてくれなかった理由を聞くことはできなかった。


 久我先生と一緒に院内へ入ると、久我先生は消化器外科の鉢目先生に呼ばれて行ってしまった。そのまま麻酔科の医局室の中へ入る。


「おはようございます」

「おい、服が昨日と一緒だぞ。どうした、野宿でもしたか?」


 私より先に来ていた五十嵐先生が私の服が昨日と一緒だと、細い目を向けた。


 冗談で言っているつもりだろうが、全然冗談に聞こえない。むしろ、何故だろう。『医師なのに清潔感のカケラもねぇな』と言われているみたいで、咄嗟に「次から気をつけます」と謝罪する。


「昨日、久我にちゃんと送ってってもらったか?」

「……は、はい」

「で、今日は久我と一緒に出勤か」

「……な、なにを言いたいんですか?」


 五十嵐先生は欠伸をしながらパンを頬張っている。


「上手く隠さなきゃ他の女医にバレんぞー、久我はモテっからな~」