ハアと大きなため息を吐くと、「もー! 幸野先生! 大きなため息吐かない! そんなんじゃ唯一の癒やしの久我に嫌われるぞ!」

「ご心配なさらずに。もう嫌われてますよ。久我先生、私とだけ目合わせませんもん」


 久我先生、三十二歳の心臓外科医。


 ――そう、術中の確認のために医局を訪れても、久我先生は私とは目を合わせない。


 他の先生は目を合わせるのに、何かの嫌がらせだと思う。


 割り箸を置き綿谷先生に愚痴を吐くと、

「ぐふっ、なにそれおもろッ゙! もう少し話聞かせてよ」

 笑いを吐き出す綿谷先生。

 面白半分ではあるが、綿谷先生は意外にも私の話につき合ってくれるようだ。


 なので、私も綿谷先生の言葉に甘えて更に愚痴を吐き出す。


「この前もですよ! 確認のために医局にお邪魔したのに、私のことは見て見ぬふり! あんなの顔だけよくても性格最悪じゃないですか!」


 ーーしまった、と、口を押えたときには遅かった。綿谷先生はしめしめといった顔で微笑んでいた。


 つい、久我先生を『あんなの』呼ばわりしてしまった。