「いや、えっと……ええっと……」


 久我先生から言われた通り必死に思い出そうとするけれど、全然思い出せない。


 頭をいくら捻っても、五十嵐先生に何を言ってしまったのか思い出せない。


 いくら考えても一緒なので「記憶にないです」と正直に答える。すると、久我先生は眉間に皺を寄せ不満気な表情をした。


指導医(オーベン)だから、好きになった?」

「な、なに言って――」


 久我先生の問いに否定はできなかった。


 私は五十嵐先生を尊敬している。少なからず、私の中には愛も芽生えていると思う。けれど、私の心の中に踏み込んでほしくなくて、形だけでも「そんわけない」と、否定しようとした瞬間、久我先生の唇が私の唇に重なった。


 軽く触れるとすぐに唇を離した久我先生。


 今何が起こったのか理解できなかった。


「――はぁ、どうだかな。俺の愚痴を言ったことが記憶にないんなら、五十嵐に言い寄られててもおかしくないよな?」

「い、言い寄られてなんか……」

「やっぱり五十嵐を好きなんだ?」


 久我先生が私に与える囚われているような、しつこいキスはこの晩止むことはなかった――。