権力だの地位だの出世だのに踊らされて、一番大事なことを五十嵐先生もここにいる医者達も忘れている。
――そんな気がする。
ソファーに腰掛けた五十嵐先生が俺の全身を見渡す。まるで、全部の情報が筒抜けになっている気さえする。
この人のこういうところが慣れない。
「どの角度から見ても超絶イケメンの久我だー、今日からここに転属になった五十嵐です、よ・ろ・し・くー」
五十嵐先生は今日からここで働くうえに、幸野の指導医になったらしい。
五十嵐先生は女癖が悪い。本院でも散々、看護師やら女医を食い散らかしていたと聞く。実際俺も、宿直のときに五十嵐先生のそういう行為を目撃してしまったことがある。
『何かあったら呼んで』と、当たり前のように行われるその行為に俺は呆れるしかなかった。
麻酔の腕が良いだけに、医者として尊敬していた自分がバカバカしくなった。
そこから俺は五十嵐先生を五十嵐と心の中で呼んでしまうほどに毛嫌いしている。
「ったく、五十嵐先生が転属って……うちの外科医、人手不足なんですよ」
「――ああ? 俺が転属してきたことと、この医療センターが人手不足なのはなんの関係もねぇだろうが。いちゃもんつけてんじゃねぇぞ」
……五十嵐先生のどうでもいいプライドが外科医の俺に向けられる。



