五十嵐先生は私にペチンとデコピンをし、背中を向けた。
「ちょっくら出てくる」
「え!? で、でも……もうすぐ麻酔科の皆、来ますよ!」
「それまでには戻る」
それまでには戻るって……
手をひらひらと振るなり、医局室から出て行ってしまった。
いつの間にかこの場に残されたのは私と久我先生のみになり、気まずい空気が流れる。
もうすぐ他の麻酔科医も入ってくるというのに出ていく気配もないので、
「あ、あの……久我先生は五十嵐先生とお知り合いなんですか?」
今日の会議で使う資料をまとめながら、それとなく五十嵐先生のことを聞いてみようと口を開いた。
「ああ、本院で一緒にオペやってた」
「本院って、大学病院ですか?」
「そう。五十嵐先生は凄いと思う。患者を良く見てるし、速いし的確。ただ……」
久我先生は何かを思い出したように表情を曇らせ肩を擦った。
「……五十嵐先生に潰されていった外科医は少なくない」



