「何があった?」


お兄ちゃんが助手席のドアを開けながら尋ねる。


顔面蒼白で、険しい顔。


「……ちょっとね」 


廉くんパワーで癒やされていたけど、一気に現実に引き戻された。


まさか、梓や大森に再会するとは思わなかったな。


梓は応援に来ただけっぽかったけど、大森は今でもテニスを続けている。


その事実が少し妬ましくもあった。


私はテニスを奪われたのに…って。


「…ゆっくりでいいからな。無理して乗り越えようとしなくていいから」


「…うん。ありがとう」


梓と再会しただけであんなにパニックになってしまったんだ。


きっと長い道のりだろうな…。


乗り越えられる日は来るのかな…。


ポンポンっ


お兄ちゃんの温かい手が頭に乗った。


「美味しいもんでも買って帰ろっか」