「先生」って呼ばせないで

「…久しぶり。じゃあ私はもう行くから」


梓と大森の横をすり抜け、校舎を出ようとする。


だけど、梓はそれをさせてくれなかった。


「せっかく会えたんだから、もっと話そう?」


梓の長いネイルが腕に突き刺さる。


「……話すことなんてない」


「え〜いいじゃーん。高松の話とかしようよぉ〜」


“高松”というワードにビクッと全身が震える。


思い出したくないあの日々。


全てが一変したあの夜。


高松の指の感覚が胸を這う。


“夜遅くなっちゃったし、送ってくよ。危ないから”


あの時、ちゃんと断っていれば。


疑うことを知っていれば。


警戒心を持っていれば。


「…ホントに話すことなんて何もないから」


梓の腕を振り払って走って校舎を出る。