「セリーヌ様? お加減はいかがですか? 今日もいいお天気ですよ!」

 あれから三日、セリーヌは療養を続けている。既に熱は下がり、ある程度身体も回復してきた。
 だが、学園や王宮に行ってアベルと顔を合わすのも嫌だし、アベルとオデットの情事について他の生徒から報告されるのも嫌だったので、未だベッドの上でのんびりと過ごしている。

 マリーが寝室のカーテンを開けながら、今朝もにこやかにお世話をしてくれる。
 セリーヌのベッド脇には美しい百合の花が飾られ、目覚めの紅茶が良い匂いをたててセリーヌを起こした。

「マリーありがとう。今朝の紅茶もすごく美味しいわ」
「どういたしまして。セリーヌ様の笑顔が見れて私は幸せです」

 マリーに「浮気は許せるか」と問いかけてから、家族や使用人たちが異様に優しい。そして、第一王子との婚約に不満はあるか、身体に支障が出たのだから抗議するべきだと両親や弟のフィルマンまで鼻息荒く憤ってくれた。今世の家族はとても温かい。きっとセリーヌが断罪されれば、深く傷付き心を痛めてくれるだろう。やはり、断罪は阻止しなければならない。

 さらに驚くべきことに、セリーヌが体調を崩したことを聞きつけて、王妃殿下と第二王子のテオドール殿下から手紙と花束を賜った。その上、テオドール殿下からは毎日のように花束が届く。

 兄の粗相を思って償いのつもりなのだろうか。優しい方だなと思いながら、セリーヌは今日も届いた花束を愛でた。

「あのクソ第一王子に爪の垢でも煎じてやりたいですわね!」

 マリーがテオドール殿下から贈られてきた花束を活けながら、憤っていた。

「ふふっ。この部屋以外でそんなことを言ったら不敬罪になっちゃうわ」
「あの浮気男。私は許せません!」
「ありがとう。マリーがそうして怒ってくれると、私は救われるわ」
「……セリーヌ様っ」

──コンコン

 ドアがノックされたので、マリーが確認しに行く。弟のフィルマンだというので、通してもらった。

「姉上。調子はどうだ?」
「ええ。ずいぶん良くなったわ。でも少し……休みたくなって。ズル休みをしているの。秘密にしてちょうだいね」
「もちろん。父上も母上も、俺も、テオドールだって姉上の味方だ」
「まぁテオドール殿下まで? ありがとう」

 弟のフィルマンと第二王子テオドール殿下は、年齢が同じこともあって仲が良い。セリーヌの二学年下の彼らは、学園でもいつも一緒にいるようだ。

 テオドール殿下がセリーヌに花束をくれるのも、フィルマンとの付き合い上、気を遣ってくださっているのかもしれない。

 アベルの様子を聞くと、「第一王子は相変わらずだ。卒業間近だというのに」とフィルマンは眉間に皺を寄せて話し始めた。

「そう……」

 セリーヌは、アベルに恋愛感情はないものの、やはり浮気は許せない。ここがもしゲームの世界で、シナリオ通りなら、セリーヌは断罪されてしまう。浮気されただけなのに。嫌がらせも意地悪も何一つしていないのに。

 記憶を取り戻してから、ずっと考えていたこと……。セリーヌは決意を固め、フィルマンに願いを告げる。

「私、婚約破棄したいの。協力してくれる?」