テオドール殿下との顔合わせの日がやってきた。

 テオドールは病み上がりだろうという予想から、優しい色味の青いドレスを選んだ。
 露出も抑え、衣擦れの音もしないように華美な装飾があまりついていないものにする。王宮に出向くには少し地味なドレスだが、ゲームの内容を知っているセリーヌはこれで良いと判断した。

(テオドール殿下の好みは、ヒロインのような素朴で可愛らしい子だもの)

 病弱な第二王子を陰で操ろうとする貴族から差し向けられるのは、決まって女豹のような目付きのギラギラと着飾った令嬢ばかり。それが心底怖かったのだとテオドールは言っていた。第二王子ルートの序盤、ヒロインに打ち明ける内容だ。

 第二王子ルートは「無垢で可愛いヒロイン」に惹かれていくストーリーだった。

 対してセリーヌは、背も高く華やかな顔立ちをしているので、可愛いと形容される部類の令嬢ではない。身体つきも女性らしく妖艶な美女ではあるのだが、ヒロインとは似ても似つかない。
 せめて服装くらいは、とヒロインをイメージした素朴で可愛らしいドレスを選んだのだった。

 そんな涙ぐましい努力の末に王宮にやってきたセリーヌだったが、出迎えたのは王妃だった。

「セリーヌ、ごめんなさい。今日もテオドールの調子が優れなくて。でも、テオドールったらどうしても貴女に会いたいって言っているの。もしよかったら、我儘をきいてくださる?」

「ええ。もちろんですわ」

 そうして王妃と共に、王宮の奥、第二王子の私室へと繋がる廊下を歩く。
 通された寝室は、陽の光がよく入る明るい部屋だった。中央にある大きなベッドの天蓋は開けられ、その上に彼は座っていた。

 セリーヌが入室したことに気付くと、にこりと微笑んだ。

 濃紺の髪は少し長く顔にかかっており、美しい翡翠の瞳がそっと覗いている。顔色は悪くやせ細り、覇気はないものの、どこか神々しいオーラをまとっていた。紛れもなく王妃殿下の御子だと分かる、王妃殿下によく似た大変美しい青年がそこにいた。

 ゲームで観ていた彼は、偽物だったのかもしれない。
 本物の彼は、なんと綺麗だろう。どこかの精霊と言われても納得できそうだ。

「セリーヌ嬢、よく来てくださいました。このような姿で申し訳ない」
「いえ。ご無沙汰しております。テオドール殿下」

 テオドールはセリーヌの二歳年下で、弟のフィルマンと同級生。学園で会えば挨拶を交わす仲だし、幼い頃はアベルとテオドール、セリーヌと弟で遊んだりしたこともある。

 だがここ数年彼の体調が思わしくなく、学園でもほぼ出会わなかったので、久々の再会だった。以前学園で出会った彼は、こんなに神々しかっただろうか。セリーヌは内心動揺していた。