婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2

「兄上はいつもあのような態度なのか?」
「フィル様ですか? そうですね。ですが少々見境がないので、もう少し考慮してもらうようお伝えします」

 再び羞恥心が込み上げてきたので、誤魔化すように言葉を続けた。頬とはいえ人前で口付けを落とすなんて、そういうのは結婚式だけで十分だと思う。恥ずかしすぎるので、もう判定試験に合格した時のような真似はしたくない。

「……兄上がお前の頼みを聞くのか?」
「はい、しっかりとお願いすれば、大体のことは聞いてもらえます」
「嘘だろ……」

 確かにフィル様の手のひらで転がされていることの方が多いけれど、私が嫌だと言えば決して無理強いはしない。それに悔しいけれど、フィル様に求められて嬉しいと思ってしまう私の気持ちも見透かされている気がする。

 アルテミオ様は「信じられない……」と呟き、もう私に話しかけてくることはなかった。王妃様の執務室へ到着して、無事に届けてきたことを報告する。王妃様と会話する際は、フィル様を愛称呼びにしないよう気をつけながら口を開いた。

「王妃様、フィルレス様へ書類を届けてまいりました」
「そう。それにしては随分ゆっくりだったのね。それで、どんな状況だったの?」
「はい、私が届けた際はアイザック様とブリジット様がいらっしゃいました」
「アイザック? ああ、あの使用人のことね。それより、ブリジットのことを聞かせてちょうだい」