「アイザックたちはとてもよくしてくれたけど、国王と王妃はそんなアイザックたちを排除しようとした」
「そんな……」
「もちろん、実力で黙らせたけどね。それからは裏ではどんな汚いこともやってきた。そうやって自分と大切な人たちを守ってきたんだ」

 あまりにもフィル様がつらそうで、そっと頬に手を伸ばした。冷え切ったフィル様の手のひらに包まれ、ぎゅっと握りしめられる。

「奴らは生物学上の親だというだけだ。今は説得力がないと思うけど、絶対にラティを守り抜くから」
「大丈夫です。これでも治癒室の激務をこなしてきたので、王妃様の妃教育くらいなんでもありません」

 精一杯の笑顔を浮かべて、私は言った。

「私はフィル様を信じています。私が結婚式で永遠の愛を誓うのは、フィル様しかいません」
「僕もラティ以外を妻にするつもりはないよ。これは全力でラティの望みを叶えないとね」
「そうですよ。私の愛する人は世界一腹黒で有能なんですから」

 だからいつものフィル様に戻ってほしい。こんな悲しげなフィル様も(いと)しいけれど、やっぱり黒い笑みを浮かべるフィル様でないと落ち着かない。

 そっとフィル様と口付けを交わして、私は改めて妃教育をやり抜く覚悟を決めた。