この治癒魔法があればどこでだって生きていける。その自信からの発言だったのに、フィル様はお腹を抱えて笑い出した。

「ふふっ……ははははっ! ラティに食べさせてもらうの、すごくいいね。そうか、平民になっても僕のそばにいてくれるんだ」
「当然です。だって王太子だから好きになったわけではないですし」
「ふふふ……ありがとう。そんな風に受け入れてもらえると思っていなかった」

 空色の瞳には光が戻り、くしゃりと表情が崩れたフィル様にきつく抱きしめられた。

「……本当に君には敵わない。僕も誰よりも、なによりもラティだけを愛してる」

 潤んだ瞳は笑いすぎたせいなのか、別の理由なのか。いつもよりキラキラと輝く碧眼から目が逸らせない。

 そしてとても寂しそうな笑みを浮かべて、フィル様は語り出した。

「僕は両親の愛を知らない。ずっと隔離塔で過ごして、その間は勉強のための本だけ送られてきて、手紙ひとつもらったことがない。アイザックとその母親だけが、僕と過ごしてくれたんだ」

 それはどれほどの孤独だったのだろう。

 確かに魔力が膨大な子供は、強力な結界が施された塔に隔離されるのがこの国の規則だ。それでも両親が手紙ひとつ寄越さないなんて、あまりにも悲しすぎる。