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 国王陛下との謁見が終わり、わたし、ブリジット・オズバーンは王城に用意された貴賓室でゆっくりとくつろいでいた。香り高い紅茶を口に含んで、優雅な仕草でカップを戻す。

「ふう、これでわたしがこの国の王妃になる道ができたわ……ねえ、ユニコーン。貴方も頼むわよ」

 シャランと音を立てて、銀色に輝く幻獣が姿を見せる。たてがみも瞳もすべてが美しく光り、凛とした立ち姿は他者を寄せつけない。

《…………》
「……貴方は本当に無口で無愛想ね」

 ユニコーンはいつも周囲に結界を張っていて、わたしが呼んだ時だけ姿を見せて浄化を手伝ってくれる存在だ。話せるはずなのに無口で、必要最低限の接触しかしていない。



 わたしはほんの一カ月前までただの侯爵令嬢だった。

 あの日の夜、いつものように部屋で眠っていたら、突然目の前にユニコーンが姿を現した。闇世に浮かび上がる銀色の美しい体躯はわずかに光を放っているようだった。

《手を》

 わたしにそう話しかけてきて夢かと思ったけれど、いくら目を擦っても頬をつねっても目の前の聖なる幻獣は消えない。

 恐る恐る左手を差し出すと、額から生えた角をわたしの手の甲にそっと添えた。
 すると角が触れたところに、なにかの紋様が浮かび上がる。蔓草がハートのような形で紋様を描き淡い光を放った後、わたしの手の甲に定着したようだった。