婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2

 元職場の同僚たちに、フィル様に抱きしめられているところを見られて気恥ずかしさが真っ先にやってくる。いたたまれなくて放った言葉が、フィル様の癇に障ってしまった。

「ラティ」

 私を呼ぶ声がワントーン低かった。しまったと思った時にはすでに時遅く。
 フィル様の右手が私の顎を捕らえ、強制的に視線を合わせてそれはもう艶然と微笑んだまま口付けを落とした。

 元職場で元同僚たちに囲まれて、みんなの視線を集める中でされたキスに私は石のように固まる。恥ずかしさと気まずさ、それからフィル様の強烈な独占欲に喜びを感じた自分が情けなくて、息をするのも忘れてしまった。

「では、また後でね。ラティ」

 フィル様は耳元でそっと囁いて治癒室を後にした。

「っっっはぁぁぁぁ……!」

 やっと息ができて深呼吸を繰り返す。顔も耳も火照って熱い。どうしようかと思っていたら、かわいがっていた後輩の声が耳に届いた。

「ラティシアさん! めちゃくちゃ溺愛されてますね〜!!」
「ユーリ!」
「いやあ、フィルレス殿下があんなに嫉妬深いとは思いませんでしたよ! あれヤバくないですか!?」
「あははっ、貴女は相変わらずね」
「そうですね〜、これくらいでないと治癒室勤務は務まりませんから」