私が倒れて眠っている間に心配をかけてしまったのが心苦しかったのもあって、素直にフィル様にお願いすることにした。それでフィル様が安心するなら安いものだ。

「うん、じゃあ、まずいつものようにラティからキスしてくれる?」
「は、はい……」

 目を閉じたフィル様の頬に手を添えて、触れるだけのキスをした。これだけでも精一杯なのに、フィル様は私の後頭部に手を回して熱を帯びた舌でその先を促してくる。

「ラティが毒物を摂取していないか調べるから、口を開いて」
「こ、ここまでしなくても……!」
「僕なら毒物の味もわかるからこの方法で調べられるんだ。ラティも同意してくれたし、これも業務命令だよ? ていうか、まだ足りない」
「ひえっ……待っ……んんっ!」

 貪るような深いキスに翻弄されて抵抗もままならない。フィル様の舌が歯列をなぞり、上顎を擦って私の舌に絡みつく。クラクラと意識が遠のきそうで、フィル様の胸板を押し除けた。

 やっと解放されたと思ったけれど、フィル様の空色の瞳は私に狙いを定めたままだ。

「ラティ、これは毒物チェックなんだからあきらめて」
「そんなぁ……」
「ほら、もっと口を開いて」
「ふぁ……っ、んっ」
「は……ヤバい。理性ぶっ飛びそう」

 フィル様の危険な囁きは、溶けきった私の頭に入ってこなかった。