* * *



 気が付いたら、私は真っ暗闇の中にいた。
 そしてここは夢の中だとぼんやりした意識で理解する。

 地面はあるみたいだけど、すべてが闇に包まれてなにも見えない。怖くて動けなくて、私はただ俯いて耐えていた。いつの間にかつま先から闇に呑まれて、足首まで真っ黒になっている。

 このまま闇に呑まれて消えるのだと思った。

『ラティシア』

 そんな時、私の胸を締めつける懐かしい声が聞こえた。

『ラティシア、こっちよ』
『下ばっかり見てたら、はぐれちゃうだろ。ラティシア』
『そうだよ、ほら前を向いて。ラティシア、こっちだぞ』

 声に従って顔を上げると、あれほど会いたいとこいねがった愛しい人たちがいた。
 お父様、お母様、それから双子のお兄様たち。

「お父様! お母様! お兄様!!」

 会いたかった、ずっとずっと会いたかった。
 夢でもいいから、会いたくてたまらなかった。

 記憶の中と変わらない優しい笑みを浮かべて、ゆっくりと私に背を向けて歩き出す。

「待って、置いていかないで!!」

 少しずつ距離があいていく家族に追いつきたくて、必死に足を動かした。絡みついてくる闇をなんとか振り払って、懸命に走った。