「……アルテミオだよ。兄上」
「だって気安く呼ぶなって言っただろ?」
「っ! もう、いいから! 兄上だから特別なの!」
「ははっ、わかったよ、アルテミオ」

 この時から兄は私の家族になった。
 相変わらず父と母は私に興味すら持つことがなく、三年経つ頃には両親は幻だったのだと思えるようになっていた。



 兄が十六歳で立太子した翌年のことだ。

 頭角を表しはじめた兄が自由に振る舞うようになると、王妃は都合よく使える駒がほしくなったのか私に手を伸ばしてきた。

「ああ、アルテミオ! こんなに立派になって……フィルレスに振り回されて、貴方まで手が回らなかったの。ごめんなさいね。でも、これからは貴方を頼りにするわ」

 反吐が出そうなのをなんとかこらえて、母だった女に笑顔を向ける。

「はい、母上。私でよければ、お役に立ちたいと思います」

 すべては敬愛する兄上のために。その言葉を飲み込んで、私は笑みを深めた。

 それからは逐一兄上へ情報を流し、最後に王妃を祖国へ返すことができた。婚約者のラティシア様も、兄上を大切に想ってくれているようだ。それに兄上はあんなにデレデレするのかと正直驚いている。

 あのふたりに負けないくらい、私も愛しい婚約者を大切にしたいと思った。