婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2

 その言葉に心が揺さぶられる。

 そうだ、兄は十歳まで隔離塔にいて会ったことすらなかった。まるで今の私のように、誰からも相手にされず存在さえ忘れ去られていた。

「大切な……人たちって、誰?」
「隔離塔で僕の世話をしてくれた親子だ。あのクソ国王が排除しようとしたから、暴れてやったらおとなしくなったけど」

 兄の言ったことに私は驚いた。『クソ国王』もそうだし『暴れてやった』とは、どういうことだろう?

「え、お前は父上が嫌いなのか? それに暴れたって、なにをしたの?」
「僕に両親はいないよ。生物学上の親なら確かにいるけど。暴れたっていうのは、少し魔力を解放しただけだ」

 ひどく冷めた瞳で両親はいないと兄は言い切った。

 隔離塔での十年間を兄はどうやって過ごしてきたのか。もしかして今の私と同じように、誰にも相手にされず、孤独だったのではないかと思い至った。そんな環境なら、世話をしてくれた親子が大切だというのもわかる。

「……全部、取られたと思った」

 ポロリと本音がこぼれ落ちた。