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 ヒューデント王国の第二王子として生を受けた私は、七歳で世の中の不条理を経験した。

 それまでは周りにはいつも笑顔の臣下がいて、敬意を払われ、両親からも愛情を注がれていた。

「まあ、アルテミオ様は天才ですわ! このお年で中級魔法も使えますのね!」
「剣技もキレがあって、このまま鍛錬なされば国一番の騎士になるでしょう」
「アルテミオ様こそが次代の王となられるのです」

 みんながそう言うから、苦手な勉強も必死に頑張った。身体を動かすのは好きだったから剣と魔法は苦にならなかったけど、誰にも負けないように手は抜かなかった。

 それがすべて変わったのは、存在だけは知っていた兄が隔離塔から戻ってきた日だ。いつものように稽古をつけてもらおうと、騎士団へ向かう途中の通路で貴族たちが集まり興奮した様子で話をしていた。

「本当にフィルレス様が十の歳を迎えたのだな!?」
「それならこの国の将来は安泰だ! フィルレス様の治政でますます栄えていくだろう!」
「貴殿はご挨拶を済まされたか?」
「いや、国王陛下の許可がでず、まだな——」
「……フィルレスって、兄上のこと?」

 私の声でその場が静まり返る。