婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2

 止まらないのか、止められないのか、夫から注がれる媚薬みたいなキスが続いた。渇望していたものを与えられ、私の頼りない理性はあっけなく溶けていく。

「僕の印が消えてるね」

 それは赤い花びらのような所有の証だと理解したと同時に、首筋にチリッとした痛みが走った。一カ所だけでは済まなくて、鎖骨にも、肩にも、胸元にも、容赦なくフィル様は愛した跡を残していく。

「これでも足りないな」

 そう言ってフィル様の右手がドレスのクルミボタンに伸びる。すっかり流された私は拒絶することなんてできなくて、されるがままになっていたのだが。

 ——コンコンコンコンコン。

「フィルレス様、戴冠式のお時間です。ラティシア様もご一緒にお願いいたします」

 ノックの音とアイザック様の声で、一気に現実に引き戻される。

「ああ、わかった」

 フィル様は私見つめたまま返事をする。ご満悦の様子で私の首筋から胸元へ視線を落としていった。

「今はここまでにしておこうか」
「……っ!! あああ! これでは戴冠式に出席できません!!」
「僕はこのままのラティでいいと思うけど」
「それは絶対に無理です!!」

 アイザック様に一分だけ待ってもらい、フィル様の執務室に常備している回復薬を飲んで、無事ことなきを得た。
 こうして戴冠式を済ませた後、私たちの結婚式をおこなう大聖堂へと向かった。