あっという間に時間は過ぎて、麗らかな春の日にフィル様の戴冠式と私たちの結婚式の当日となった。

 王都は三日前から前夜祭が始まり、大勢の民が押し寄せ賑わっている。いろんな出店が並び、私とフィル様の瞳の色の雑貨が飛ぶように売れているらしい。商売上手な商人たちがいれば、この先も王都を盛り上げてくれるだろう。

 そんな中、ひとりだけ浮かない顔の人物がいた。

「はあ、戴冠式って面倒だよね」

 戴冠式用のロイヤルブルーの正装に身を包んだフィル様が、執務机で頬杖をついてつまらなさそうに呟く。いつもより煌びやかな装いのフィル様が憂いに染まる姿は、芸術的な絵画のように様になっていた。

「フィル様。気持ちはわかりますが、避けて通れません」
「うーん、そうだな。ラティが協力してくれたら、やる気が出るかも」
「協力ですか? どんなことでしょう?」

 私がなにかしてフィル様のやる気が出るなら、喜んで協力しよう。

 最近はさまざま準備のために遅くまで政務をこなしていて、フィル様とあまり接点を持てなかったのだ。さすがのフィル様も結婚式と戴冠式の準備を同時進行するのは厳しかったらしい。

 そう思って声をかけたら、腹黒な夫はどんでもないことを言い出した。