「ラティ、僕のサプライズは気に入ってくれたかな?」

 フィル様が真っ黒なオーラを放って近づいてくる。一歩、また一歩と距離が縮まり、私の腰を引き寄せたフィル様に優しく抱きしめられた。

 顎先を持ち上げられ、空色の瞳と視線が絡む。

「僕の女神に文句をつける馬鹿な人間がいなくなるよう、完璧に整えるから任せてね」
「あ、ありがとうございます……」

 自分が演劇の題材になるなんてどんなん罰ゲームかと思ったけれど、お礼以外の言葉を口にすることができなかった。

 私の評判が悪ければ、フィル様の足を引っ張ることになるのはよくわかっている。でも、わざわざ演劇にしてまで広めることなのだろうか?

 そんな考えを見透かしたかのように、フィル様が物騒なことを言い始めた。

「もしラティを悪く言う奴がいたら、次は間違いなく極刑に処すからね」
「それはやりすぎでは!?」
「だから、そんなことにならないよう手を打ったんだよ。わかってくれる?」
「わ、わかりました……!」

 私が悪口を言われたところでなんとも思わないけど、それがフィル様の耳に入ったら大変なことになる。仕方ない。私が恥ずかしいのをこらえれば、そんな危険性が減るのだ。

 これは回り回ってフィル様が暴君になるのを防ぐためなのだと、自分に言い聞かせる。

 私はここでやっと、夫の愛が重すぎではないだろうかと思い始めた。