ギリッと奥歯をかんでラティが休んでいると聞いた寝室へ、息を切らして戻ってきた。部屋に入ると、治癒室の室長を務めるエリアス・ハミルトン室長がラティを診察している。

「フィルレス殿下……!」
「……ラティの容体は?」
「はい、ラティシア様には治癒魔法を施し、今は症状が落ち着いています。しかし私が診察するまでに毒が回っており、完全に解毒できたか微妙なところです。しばらくは経過観察と、治癒魔法での継続治療が必要かと存じます」

 この男は平民ゆえに専属治癒士になれなかっただけで腕は確かだ。しかもラティの元上司でもあるし、なにより彼女を娘のように面倒を見てきたと聞いている。治療はそのまま任せて問題ないだろう。

 ベッドの上で静かに眠るラティは、真っ白な顔色で生気がまるで感じられない。頬を撫でると驚くほど冷えていた。

「僕の部屋にさまざまな解毒剤がある。エリアスの見立てを聞きたい」
「……症状は嘔吐と痙攣です。その他に治癒魔法をかけた手応えからすると、ユキワリソウの毒症状かと思われます。製法によっては胃腸の痛み止めの薬になるのですが……アルカロイド系の毒に効く薬はお持ちでしょうか?」
「わかった。該当する物をすべてこちらに運ぶから試してくれ。足りなければすぐに手配する」
「ありがとうございます。絶対にラティシア様を回復させます……!」