「フィル様、私が口にしたのはブリジット様が持ってきた焼き菓子と、お茶だけです。昼食でも問題なかったので、毒を盛られたならそのどちらかです」
「…………」
「あの、フィル様。フェンリルを許してあげてください。私が不用意に食べ物を口にしたのがいけなかったのです」

 これでフィル様の怒りが収まらないかと、無言のフィル様の手を包み込んだ。

「心配をかけて申し訳ありません、フィル様。もう大丈夫ですから」

 フィル様が私をギュッと抱きしめた。背中に回された手がわずかに震えている。

「ラティを失うかと思った……」
「大丈夫です。そうだ、エルビーナ様からもらった万能薬も飲んでおきます!」

 フィル様の不安を払拭しようと、ここで万能薬も使うことにする。解毒薬を飲んだとはいえ、身体にダメージは残っているのだ。

 キュポンッと音を立てて蓋を開けたところで、ピンクの小瓶はフィル様に奪われた。

「僕が飲ませる」
「いえ、だ、大丈夫です! ひとりで飲めますから!」
「ラティ、業務命令だ。僕から万能薬を受け取れ」

 そう言われて反論することなど許されず、貪るような深い口づけとともに万能薬を飲み込んだ。